クリスマス間際になると、活気が付いてくる。
三越のようなデパートメント・ストアに働いている女性達は、
お客の品物を数多く縛るので、指をすり切ってしまう。
と言われているくらい忙しい。
店ばかりではない。
どこの家庭でも準備に追われる。
私とイデスとは、婦人に知られないように買い出しに行き、
部屋の飾りをする。
婦人は婦人で、女中を相手に食堂の装飾を秘密に行う。
いよいよ、
12月24日クリスマス・イブ(基督降誕祭の前夜)
と、なった。
ご馳走は、6時台という告知があったので、
客はにぎやかな声で、入ってくる。
男子はシルクハットに、ドレススーツ、
女性は意匠を凝らしたイブニングドレスを、着ている。
イデスは空色、私はピンクの夜会服で客を迎えた。
家族の集まりでもクリスマスのような場合には、
正式に装うのが欧米の習慣である。
人々はまず、階下の客間に招かれた。
やがて、食事用意ができたと、鐘が鳴る。
婦人は一同を導いて食堂に案内する。
気持ちよくドレスした給仕女性(メイド)が、
静かに戸を開くと、
いつも煌々たるシャンドレーアは形のみで、
蝋燭の火が夢のように淡く室内を照らしている。
食卓は、美しくリネンで覆われている。
その中央には、薔薇とカーネーションが風雅に挿してある。
その間にチェリー・キャンディ・ナッツの類が、
センス良く並べてある。
石竹色の傘をいただいた銀の燭台が、いたる所に置かれて、
卓上の人々に柔らかな光を送っている。
夫人とこの日の主人役である総領息子は、
向かい合って、細長いテーブルの両端に座った。
お客と私達は、男女入れ違いにテーブルの両側に座った。
男子はいつものように婦人の椅子を後ろに引く。
そして、婦人が座った後、自分も座る。
やがて、スープがすむと、
鳶色にやいた七面鳥のローストが、主人の前に運ばれた。
主人は大きなナイフとフォークを取り、
手際よく切り、皆の人に分配した。
夫人が趣向を凝らした料理が次々と出された。
2時間の食事は、実に愉快なものであった。
家族の集まりなれば、
皆が打ち解け、思い切った冗談、珍しい話などをした。
食後、客は、二階に案内された。
二階の応接間は、北極の荒涼たる雪景色に変化している。
客と私共は、総勢12人。
クック隊とペリー隊とに分かれて、室の向かう道に隠してある
クリスマスの贈り物を拾いながら進んで行く。
多く拾った方が勝ちである。
客は、男性も女性も一緒になって進んで行く。
キャキャと言って、手探りしながら行く。
私達が工夫した余興がよくできている。
と、皆が誉めてくれたので、大いに面目を施した。
米国では、
夫は妻へ、妻は夫へ、親は子へ、子は親へ、
姉は妹へ、妹は姉へというように、
クリスマスの贈り物をする習慣がある。
他人同士であれば、
あまり実用向きのものを贈るのは、
人を馬鹿にしているようである。
だから、趣味のある装飾品などを送る。
仲が良い人では、もちろん別である。
いずれにしても、非常に考えたうえ、
贈り物を決めるというのが向こうの人の習いである。
半年も前から、
今夜のクリスマス・プレゼントを、何にしよう。
などと考えている人もいるようだ。
ガーレー家の二階で、全ての贈り物の儀式は終わった。