その他、たくさん悪感化がある。
それに一旦染まれば、
帰朝後到底わが社会と相入れる事はできず、
無論、人の妻となる事はできぬ。
それでは、労働によって、
幾千の富を得て帰っても何にもならない。
しかし、感化は悪いとばかり限らない、
良い実例も少なくない。
米国人は知識の程度からいうても、
道徳の点から云うても極端から極端を代表している。
世界に知れ渡った学者があるかと思うと、
日本とアメリカの差別を知らないような無知者もいる。
一方には、醜悪耳目に絶えぬ罪悪が行われているかと思えば、
他方には真の意味に於けるキリスト教の道徳がよく守られている。
まことの慈善家・宗教家が
彼の国の婦人の中には、珍しくはない。
かくのごとき婦人の作った家庭には
円満な実に美しいのがある。
労働の為に渡米した我々の姉妹が、
こんな家庭に入り、職を得ることが出来たなら、
日本でつまらぬ女学校の教育を受けるよりも
良い感化を得るだろうと思う。
私はかつてある富豪の老婦人の家庭に、一年を過ごした事がある。
家庭の整理・下女の使い方・交際の方法等
実に感服するところがあった。
身は百萬の財産を持ちながら、
勤倹質素で絹を着る事は、余程の場合でなければならない。
けれど、いやしくも公共の為、真理の為なれば、
財を散じて少しも惜しまない。
この婦人の助力のもとに毎年数人の学生が大学を卒業する。
けれでも、婦人はこれを他に語ったことは一度もない。
私は、一年間この崇高な人格に接して、
四年間大学に居て得る事のできなかった教育を得た。
私は、ロンドンからの帰り道で
22歳と18歳の二人の婦人と同船した。
容貌・動作からどうしても両家の娘としか見えぬ。
しかも交際の方法を知り、
抜け目なく料理・裁縫にも一通りの心得があり、
かつ自由に仏語を操る有様は、
確かに、箱入り娘と比較して
知的発育の勝れるを示していた。
聞けば、両人は3~4年前、
或外国の領事夫人に頼まれ、
婦人の子女を守りする為に、南米に渡って以来、
その家庭に良く働き、今度期充ちて帰朝するのであった。
この3~4年間、その家庭に働いているうちに、
両女が得た物は、高等諸学校の教育の遠く及ばないものあった。
兎に角、日本の女子が労働を目的として渡米するのは、
労働の種類と、入り込む境遇によっては、
経済上教育上大いに益するところがあると私は思う。