婦人について 米国における日本婦人の労働 その9 ************************************************** ************************************************** **************************************************

その他、たくさん悪感化がある。

それに一旦染まれば、

帰朝後到底わが社会と相入れる事はできず、

無論、人の妻となる事はできぬ。

それでは、労働によって、

幾千の富を得て帰っても何にもならない。

しかし、感化は悪いとばかり限らない、

良い実例も少なくない。

米国人は知識の程度からいうても、

道徳の点から云うても極端から極端を代表している。

世界に知れ渡った学者があるかと思うと、

日本とアメリカの差別を知らないような無知者もいる。

一方には、醜悪耳目に絶えぬ罪悪が行われているかと思えば、

他方には真の意味に於けるキリスト教の道徳がよく守られている。

まことの慈善家・宗教家が

彼の国の婦人の中には、珍しくはない。

かくのごとき婦人の作った家庭には

円満な実に美しいのがある。

労働の為に渡米した我々の姉妹が、

こんな家庭に入り、職を得ることが出来たなら、

日本でつまらぬ女学校の教育を受けるよりも

良い感化を得るだろうと思う。

私はかつてある富豪の老婦人の家庭に、一年を過ごした事がある。

家庭の整理・下女の使い方・交際の方法等

実に感服するところがあった。

身は百萬の財産を持ちながら、

勤倹質素で絹を着る事は、余程の場合でなければならない。

けれど、いやしくも公共の為、真理の為なれば、

財を散じて少しも惜しまない。

この婦人の助力のもとに毎年数人の学生が大学を卒業する。

けれでも、婦人はこれを他に語ったことは一度もない。

私は、一年間この崇高な人格に接して、

四年間大学に居て得る事のできなかった教育を得た。

私は、ロンドンからの帰り道で

22歳と18歳の二人の婦人と同船した。

容貌・動作からどうしても両家の娘としか見えぬ。

しかも交際の方法を知り、

抜け目なく料理・裁縫にも一通りの心得があり、

かつ自由に仏語を操る有様は、

確かに、箱入り娘と比較して

知的発育の勝れるを示していた。

聞けば、両人は3~4年前、

或外国の領事夫人に頼まれ、

婦人の子女を守りする為に、南米に渡って以来、

その家庭に良く働き、今度期充ちて帰朝するのであった。

この3~4年間、その家庭に働いているうちに、

両女が得た物は、高等諸学校の教育の遠く及ばないものあった。

兎に角、日本の女子が労働を目的として渡米するのは、

労働の種類と、入り込む境遇によっては、

経済上教育上大いに益するところがあると私は思う。