ジャック・ホイランド氏は、

私共が英国へ行くという事を聞いて、

いろいろの便利を図ってくれた。

彼は、英国の処々方々に広がってゐる

親類や知己に手紙を送った。

そして、私共が訪問したならば、

必ず丁寧にもてなすように。

と、頼んでくれた。

ジャックさんのそうした親切のにより、

私共は、英国の家庭のいろいろな面を見る事が出来た。

グラスゴーを出発すると、その日26日の午後5時頃、

ケンダルという小さい街に着いた。

ひとまず停車場前のホテルに落ち着いた。

それから、其処の街の前町長ギルクス氏の所へ

電話をかけた。

キルクル氏は、ジャックの叔父で町中第一の金満家だ。

そして、私共の到着を知らせた。

氏は、既にジャックから私共を紹介した手紙を、

受け取っていた。

なので、電話が掛かると非常に喜んでくれた。

明日、是非昼ご飯に来てください。

食後は、こちらの自動車で古跡に案内します。

と、招待された。

翌朝、ギルクス氏は、私共を迎へに来てくれた。

昼ご飯の時と定められた12時に、尚未だ間がある。

なので、その間に街の見物をしようという事にした。

氏はまず、街の主だった通りを見せてくれた。

それからここで最も古い寺院を見せてくれた。

次に、氏の経営しているボムズ製造所と

毛織物の工場とを見せてくれた。

これらの製造所で用いられている機械などは、

米国よりも古式なものではないかと思った。

これらの見物を済まして氏の家に着いたのは、

丁度12時であった。

家は、小山の上に建てられていた。

高い石垣に取り巻かれている所は、

日本の富豪の邸宅によく似ている。

家に入ると夫人が待ち受けていて、喜んで迎えてくれた。

夫人の服装があまり立派なで、

私の安っぽい絹服が恥ずかしかった。

それで私は、

旅の事とて身軽身軽と心がけました。

だから、つい正装のディナー服を、

持って参りませんでしたので。

と云った。

自分の来ている着物の粗末なことを詫びるやら、

まだ他に良い服を持っている事を知らせるやら

後で考えて、女性という者は、

虚栄心の強い者だと自分ながらおかしかった。