ある日、ジャックさんは原口が渡英すると聞いて、
紹介状を書いてくれた。
そして、君らがイギリスに行く時に先方で、
待ってゐる事にしとくから、
と云った。
私共は、最初に蘇格蘭のグラスゴーに向けて、紐育を出た。
ジャックさんが紹介して下さった人達について、
グラスゴーの汽車会社宛てに沢山案内状が来ていた。
私共がグラスゴーという煙の巷に立ち寄った一つの理由は、
これらの案内状を得んが為であった。
ジャックさんは、
前に言ったように一向に自分の素性を語らない。
だから、この人の身元を知っている者がなかった。
米国にいる学友一人として私共は、英吉利に来てみて驚いた。
ジャックさんが紹介して呉れた人は、
英吉利の東西南北に散在している。
そして、その地方の名家である。
しかのみならず、
皆ジャックの親類の続きになってゐるのである。
ジャックさんの家の場所は、
バーミンガムといふ大きな町のそばにある
セリー・オークという小さな町である。
そして、ジャックさん自身の家は、
クエーカー宗の人々を養成する学校を持っている校主である。
そして、かなりの財産家である様である。
殊に、その叔父であるキャットベリーといふ人は、
英国における有数の金満家である。
日本辺りにも、キャットベリーのチョコレットと云って、
西洋食料品屋に行けば得られるところを見れば、
おそらく世界中屈指のチョコレット類の製造人であろう。
お母様の話によると、
ジャックさんは、ケムブリッヂ大学にいる時に、
2~3度賞状か賞金をもらった。
との事である。
こんなことを一行に鼻にかけない
ジャック・ホイライドは偉い青年でなければならぬ。
ジャックさんは、
英国の紳士階級の深みとノーブルな処をよく表している。