30日の午後、
倫敦に次ぐという大都会・バアミンガム市に来た。
郊外の小市セリョークに住んでいる
ジャック・ホイランドの父ホイランド氏の家庭を、
訪はむ(とはむ)が為である。
バアミンガムで汽車へ乗り換えて、セリヨオクに来た。
すると、身の丈6尺以上もあらうと思ふ立派な紳士が、
私共を待ってゐた。
これはようこそ、いらっしゃいました。
私が、ホイランドです。どうぞ是へ。
と、停車場の前に待たせてあつた馬車に乗せてくれた。
馬車は、大きな花園に囲まれた、
3階建ての家の門前に停まった。
主人は先に立ち、玄関から2階の応接間に、
私共を案内した。
夫人は非常に丁寧に、
及ばぬ勝ちの家ではありますが、
どうぞごゆっくりご滞在なさい。
旅の疲れもおありでせうから、
まづ、お部屋にご案内致しませう。
夕飯まではまだ一時間もありますから、
心置きなく御休息なさい。
と、云いながら私共を誘って、
廊下の彼方の一室に案内した。
ここは、畳20畳も敷かれさうな広い立派な部屋である。
一方に入り口があって、
その向こうに大きなガラス窓が、五つある。
左手に置かれた綺麗な寝台は、寝台掛で覆われている。
寝台掛けは、
真っ白なリネンの一面に菊の縫取りがしてある。
右の壁に沿うて洗面台がある。
大理石の上に白と青とで図案のしてある手洗ひと、
水の一杯入った小瓶とがある。
正面の大きな鏡台の上にも、
やはり菊花の縫箔のあるリネンが掛かっている。
そのソファーやいすが、
壁や器具の色と、よく調和するやうに彩られている。
ここで暫く休息して、夜の食事に出る用意をした。
私は、仏蘭西縮緬(フランスちりめん)が、
軽く肩にかかつた空色の夜会服を着た。
6時45分の用意のベルが鳴り、七時に食事のベルが鳴った。
主人は白い服を着ていた。
そして、夫人の姪に当たる22~23歳の令嬢と共に、
私共を迎えに来た。
階段を降りて、左へ廻ると、広い花園に面した食堂がある。
そこへ入ると、20歳以上30歳以下位の夫人が十人、
男子が八人ばかり、もうテエブルに座っていた。
私達には、上席を与へられた。
食事中、いろいろ話をしている間にその理由がわかつた。
ホイランド夫妻は、非常に宗教に熱心な人で、
自分の家の続きに寄宿舎を設けている。
そして、伝道師を養成しておられる。
食後、夫人の姪なる人と花園を散歩した。
また、応接間で編み物等しながら、家族内寄って話をした。
実に静かな夕であった。