再び馬車に乗った。
馬は、勢いよく森の中の小道を分け行った。
間もなく、
私共は険しい青々とした山々に取り巻かれながら
ダイアモンドの如くに美しい湖のほとりに来た。
それは、詩人ウォルター・スコットが、
雄筆によって世界に名高くなった
カトリン湖(ロッホ・カトリン)である。
風流な「スコット」と言ふ船が私共を待ってゐた。
船は湖の東の端から動き出した。
鏡のやうな静かな水に、
こんもりした両側の緑がはっきりと映っている。
右手のボツと浮かんだような小島は、
昔『湖上の美人』エレンの住んでいた所との事。
夢の様に静かで、幻の様に淡い、美しい景色であった。
船客は皆静かにウットリしていた。
1時間ほどして船が西岸に着くと、
待ち合わせていた馬車に乗った。
気候は余程寒く、
厚い毛織物の綿の一杯入った服を着ていても、
ゾクゾクする位であった。
暗い谷底を降りて暫くすると、前は一面の大湖水である。
その前のホテルで休息して、
茶など飲んで、大きな滝を見た。
乞食が奏しているバック・パイプさえ此処へ持ってくると、
一種詩的な感想を人に与える。
私はゆくゆく考えて。
アメリならばこんな所があれば、
直ぐに夏の別荘とか自動車の道路とかホテルとか
料理屋とか見世物屋等が出来て、
直ぐに天然の美を打ち壊そうとする。
レーキ・ヂョージのような美しい所でも、
夏になれば亜米利加人は天幕をさえ張るではないか。
もし、亜米利加の
いわゆる百万長者(ミリオネア)と言ふよう者が、
エレンス・アイランドを購入して、
此処に別荘でも建てたらどんなものであらうか
ここは、蘇格蘭の詩に拠って、初めて名高くなった。
というけれども、
何故その以前に名高くならなかったのであろうか。
成程、寄り付きにくいと言うかもしれないけれど、
その点はわが中禅寺華厳の滝と同じ事である。
小枝がばさばさと頬をうつ。
と、こんな余計な事など考えながら、
ロッホ・ロモンドという蘇格蘭第一の湖を、
横切ってグラスゴーに向かった。
ここは、グラスゴー市民の影響を受けていると見えて、
いくらか俗化している。
グラスゴーでは、セントラルホテルといふ旅館に宿し、
ここに初めて日本への便船の詩確かめた。