砦の内側の急な坂をどんどん上がっていくと、

左手に長さ10間、幅7間位の小さな窓の二つ付いた

石造りの古い家がある。

案内者は、これを指さして

これは、蘇格蘭中で一番古い小さい礼拝堂である。

と、説明した。

中は、極めて、無雑作で、何の飾りもない。

これは、今から九百余年に、

マアガレッド姫の令によって、建てられた。

が、時あだかも戦国であったから、

礼拝する時は何時も周囲に護衛兵を立たせた置いた。

との事である。

舞踏室に入ってみた。

これは,全く石造りで彫刻も何もない、

殺風景な大広間であった。

両側の壁は、総て甲冑や武器で飾ってある。

次に蘇格蘭の王室の宝物のある部屋に来た。

緋天鷲絨の座布団の上にあるのは王冠だ。

その他、ルビー・パール・ダイヤモンド等で出来た

首飾り・金の鞘に納まった王剣もある。

何れも皆一々長い長い歴史を持った宝物である。

次の大広間は有名なメリー女王の部屋である。

蘇格蘭時代に作った物であるから、

奢侈の風は少しも見えない。

之に続いた小さい部屋が、女王のお産室である。

寂しい寂しい景色を窓からも見降ろしてゐる。

王子の為に捧げた祈祷の文句が、壁に彫り付けてある。

私は、冷たい石の室に入った時に、

戦国時代における夫人の生活を思い浮かべて、

身の毛のよだつのを覚えた。