ある日、私は、マダム・パウルから

晩餐会の招待を受けました。

もとより辞すべき理由もありませず、

其の自宅の生活というのも知ってみたい気がしましたから、

喜んで、その招待に応じましたが、

それにはぜひ、日本服を着て来てくれ

と、いうものなのであります。

しかし、

道中も日本服で行くのもいかが。

と思って、これをスーツケースに入れて、

洋服を着て参りました。

マダム・パウルの自宅というのは、

紐育のはずれのブルックリンにあるのであります。

私は、

ちょっとした住宅街ぐらい。

に、思って参ったのでありますが、

行ってみると、驚きました。

広い庭園に三階造りの広壮な建築で、

なかなか堂々たるもの立派な紳士の住まいと、

言えるのであります。

取り次ぎに出たメイドなども

温雅で上品であたかも女王の従者のそれのごとくに

思われました。

内部の装飾などもなかなか大したもので、

これが一シンガーの手によって支えられている生活か。

と、思って、少々不思議に思ったほどであります。

階下は食堂や音楽室、

二階はマダム・パウルとその主人の部屋になっていて、

ピアノなど置いてあります。

また、私は、まず、この二階に通されて、

日本服に着替える為に支度をしましたが、

マダムとメイドは私の為にいろいろの事を

手伝ってくれました。