~ナイトガウンパーティー~

寮の生活には、楽しい面白い事もあるが、

また、吹き出しそうに可笑しな事もある。

ナイト・ガウン・パーティーはその一つで、

読んで字のごとく「寝巻会」という

洒落た集まりである。

これは、寮の監督などにしられない様に、

こっそり催す会なのだから

あまり口外するのは、

同窓の人々に対してすまないけれど、

私が日本語で書いた文の内容のこんな細かいことまでが、

紐育に飛んで行って、

寮生がお目玉をいただくような気遣いは必要ないと思うから、

寮舎生活の滑稽な方面の一つとしてここに紹介する。

私が入寮してから、一月ばかり経って、

ある土曜日に学校から帰ったら、

私の郵便箱に立派な招待状が待っていた。

舞踏会か何かに誘われたのだ。

と、思ってあけてみたら内に

今晩12時、私の部屋にて、

ナイト・ガウン・パーティー相催し候、

持ち合わせの中でも最も美しきお寝間着を

召してご来遊下されたく候。

第三階室56番

と、あった。

夜の12時が会の時とは可笑しい。

昼の12時の誤りではないか。

しかし、会の名が名だから、これが本当なのかもしれない。

招待状には左様書いてあるが、

まさか字通りに、寝巻で行くのではあるまい。

とにかく初めての事で、様子がわからないから

普通の服と一番きれいな寝巻を用意しておいて、

迎えに来た人に聞いて、どちらか着てゆこう。

と、決めた。

十時半に電気が例の瞬きをすると、

舎中一度に静かになった。

各室の灯は消えて、

大多数の生徒が夢路を辿っている11時半頃、

私の部屋の戸に低いノックが聞こえる。

開けてみると、

私と同じテーブルに座るお馴染みのM嬢で、

髪を解いて長く後ろに下げ、

ピンクのリボンで飾った真っ白い寝巻の上に、

上っ張りのようなものをかけている。

私の耳に口を当てて、

お迎えに上がったのよ。

と、いう。

私は大急ぎで言われるままに、

寝間巻に着替え、スリッパを履いて

足音のしない様にこっそり部屋を出て行った。

まるで駆け落ちでもするようである。

破格な着物を着ているのだから、

エレベータなどに公然と乗れないので、

その側の石段を、ご苦労様に八階から三階迄降りて行った。

あたりの部屋は、

皆、真っ暗で356番だけは、戸の隙間から光が漏れて、

中からひそひそ話声が聞こえる。

低く戸を叩くと、内からすぐ戸が開いた。

夜中だから大きな声は出せなかったが、

部屋の光景を見た時には、まったく吹きだした。

6畳ばかりの小さな部屋に15人ばかり入っている。

髪を解いて、バラっと下げている者や

編んでリボンで結んでいる者や

色々様々な様子をしている。

寝間着は、ピンク・空色・白などが多かった。

皆一番良いのを着てきたようで、

胸に美しいレースの装飾のあるのや

首の廻りや袖口一面に縫い箔をしてあるの等があった。

椅子は一部屋に二つずつしかないのだから

それを占領した二人の他は、

大抵どんな格好をしているかわかるでしょう。

鏡台に腰を掛けているのがあるかと思えば、

トランクの上に座をしめているのもある。

寝台の上に5人ほど乗っているかとみると、

辺りの器具に乗り切れない人達は、

床の上に無造作に座っている。

私が顔を出すと

珍しい来客だ。

と言って、寝台の上に招じられたが、

五人の中央に割り込んだので随分苦しかった。