勉強机の上にあった本やインクに、
今夜はすっかりお暇が出て、
その代わりにいろいろな勝手道具がのっている。
中央に、アルコール・ランプの上に、
チェーフィング・ディッシュ
(お鍋のようなもので四つ足がついている。)が、かかって、
その周囲に砂糖の筒だのレモンの瓶だのチョコレットの箱が、
いっぱい並んでいる。
そのうちに、主人公のアン嬢が、
白いエプロンを二つ三つ出してきて、
誰でもフヲッジ(チョコレットで作った菓子の一種)の
作り方を、知っている方は手伝ってちょうだいな。
と、小声で言うと、座中皆
イエス
と答えた。
けれど、その中の上手そうな人だけにエプロンが渡った。
直ぐ茶菓子が出る事だと思ったら、
これからそれをこしらえるのだ。
とは、驚いた。
もう一時過ぎだから、
お菓子が出来て頂戴するまでには2~3時間もかかろう。
とんだご招待に預かった。
と、私は思ったが、
他の人は、一向平気で、お話に余念がない。
机の上では、湯が煮立ちすぎて、
ザブザブテーブルの上に溢れ出したり、
チョコレットの跳ねが飛んだり、
砂糖の入れ物がひっくり返ったり大騒ぎをしている。
一時間余りたってやっとお菓子が出来上がった。
いよいよ菓子にありつける。
と思ったら、それは、そっくり棚の上に乗せられ、
今度はサンドウィッチ製造が始まった。
主人は、衣服戸棚の引き出しから、
ローストビーフの大きな塊とパンを十斤ばかり持ち出した。
パンを切る人・肉を切る人・バターをつける人・
肉をはさむ人・大勢であったから、30分経たぬ内に、
15人前のお弁当が立派に出来上がった。
午前3時やっとご馳走にありついた。
初めに、
美味いぶどう酒のなみなみと注いであるコップが、
一人に一つずつわたり、
おいしいオリブがそれについて出た。
次に、山のような盆の上に積んである
サンドウィッチが回って来た。
皆、遠慮なんかちっともない。
まだ、ぶどう酒が残っていますか。
など、主人公に質問する人もあった。
山のようにあったサンドウィッチが、
つかの間になくなって、次にフヲッヂが出た。
ミルクとチョコレットでできた舌触りの良いこのお菓子は、
湿っぽいサンドウィッチの後で、殊においしく感じた。
その間にも話は絶えない。
大きな声をすると、お隣から小言を言われるので、
小さく耳語く(ささやく)のだけれど、
15人が一度に耳語いては、随分高い騒音になる。
話題は、無邪気な事ばかりで、
何先生がこの頃お髭を生やした
とか
あの先生のカラーは高すぎる。
とか、
昨日の独逸語の時間に、この発音が出来なくて困った。
とか、何でもない事をいうて、可笑しがっていた。
皆、上気して頬が赤くなり、
その対象で腕や首がことのほか白く、
豊かな額に金色の波がうっている様子も、
心も真に無邪気な若い女学生の集まりで、
何とも言えない可愛らしい光景であった。
そろぞろ帰る支度をし始めたのは朝5時ごろ。