エレベーターは、直ぐ、私共を、
たくさん若い婦人達の笑い興じている
大広間に連れて行った。
あなたの椅子、この方のソファーに、
男女の組が楽しそうに語られているところは、
日本から来た私の目に珍しく映った。
女性は、
いずれも白・ピンク・クリーム空色等の薄い夜会服を着け、
真っ白い顔と蝋石のような腕を見せて、
目映いばかり美しく見えた。
ミス・ダニエルは、
私の手を引いて、いろいろな人に紹介し、
大勢と知り合う様にしてくれた。
舞踏室に音楽が始まると、
それに合わせて舞う人々の衣擦れの音が、聞こえだした。
ミス・ダニエルは、私をそこに導いた。
踊っている組の中には、
女性同士のもあり、男女のもあった。
何故、ここに男性なんかいるのですか。
と、東洋的な質問をすると、
あれは、聖都の兄さまや友達で、
今晩訪問に来た人達です。
こんな若い男女をよく導いて、
このように交際させるのが私の義務の一つです。
と、ミス・ダニエルは、説明した。
男女が一緒になって踊るのを見るのは、
これが初めてだけれど、
ただ、優美というばかりで、少しも変に感じなかった。
舞踏室の隅のソファーに腰かけていた夫人が、
私の方へ進んで来た。
ミス・ダニエル(会釈をしながら)
あなた、私とダンスを遊ばしてくださいませんか。
私
私は、つい最近、日本から来たばかりで、
ダンスなどは出来ぬ。
ミス・ダニエル
日本のダンスならおできになるでしょう。
踊ってみせて頂戴な。
私
またいずれ・・・
(この舞踏室の真ん中で、
扇子を持って踊り出したら、随分良い見世物だろう。)
ミス・ダニエル
では、明晩、私が米国のダンスを教えするから、
あなた、日本のを教えて頂戴な。
と、真面目に、おっしゃって向こうへ行った。
いろいろな人に会って、
種々なお話をして面白い最中、
四方の電気が消えて真っ暗になった。
数秒の後、再び明るくなると、
ダンスは、ばったりやんで、
訪問に来た男子は、帰る支度をし始めた。
十分経って、電気が同じことを繰り返すと、
皆、名残惜しそうに暇を告げ、一度に出て行った。
午後十時三十分以後、
男子を舎中に置かぬのが、ホールの規則で、
第一の消灯は、
帰る用意をしてください。
第二のは、
お帰り下さい。
と、いう印であったのである。