この日、私は、先生と相談して、
入学の手続きを済ます事にした。
一つ、私が困ったのは、
先生が願書中にPh.Dの学位を希望する。
と、書いてしまった事である。
これには、私は大いに異議があった。
英語のとてもできる米国の学生でさえ、
頭がなければ、
コロンビア大学のような第一流の大学では、
”Ph.D"という学位は取れない。
私ごとき凡才であるうえに、
英語もろくにできない者に、
それが取れようはずはない。
そんな事を、望むのは
空中に楼閣を築きと同じことである。
私は先生に
私は、
マスター・オブ・アーツ位にして、
おいて頂きましょう。
と、言った。すると先生は、
任しておきなさい。やってごらんなさい。
と、こともなげに言って、
願書に受け持ち教授として記名してしまった。
そして、
大学院の学監に記名してもらって手続きを済ませ
と、指示をした。
言われるままに、私は学監のR教授を尋ねると、
私の顔と願書を見比べながら、
容易に手続きをしてくれないようにもない。
そして、遂に、電話のレシーバーを耳に当て、
ソーンダイク教授を呼び出して
今、自分の所に来ている夫人は、
本当に、ドクトルの候補者たる資格が、ある者かどうか
を、尋ねた。
自分の面前で、こんな話をされた私は、大いに立腹した。
しかし、ソーンダイク教授が
資格あり
と、答えたとみえ、
なほ、私の顔を、
きょろきょろ見ながらしぶしぶ署名してくれた。
こんな事があったので、
私は、在学4年間どうもこの人に親しめなかった。
とにかく、これでほっと一息つき、
急ぎ会計課に行き、入学料5弗(ドル)=十圓、
半年分の学費75弗(150圓)とを納め、
首尾よく入学の手続きを終えた。