1907年9月15日!
私が、ソーンダイク先生と、面会を約束した日である。
大学へ行く道すがら、
私は先生について、いろいろ想像をめぐらした。
私が、日本にいる時や渡米してから頂いた、
先生の細かい小さい女のような字で、書いた手紙、
その手紙が、親切丁寧にできている事等を、思い合わせて、
先生は、
たぶん、やせた多少神経質的な丈のすらりとした
50の坂を越した胡麻塩頭の人であろう。
と、考えた。
程なく大学の門に達し、エレベータに乗って、三階目に登り、
廊下を歩いて、一寸右を曲がると、
先生の大きな事務所がある。
胸をどきどきさせながら、半分開きかけた戸を押し開き、
先生の専属の女性の書記に、
ごめんください。先生は、おいでですか。
と尋ねると
イエス
と、答えながら、つかつかと私の方に進んでくる。
身の丈、6尺もあると思われる太っている紳士がいる。
まだ、その年頃、34~35歳ぐらいにしか見えない。
私が、過去数か月間に
このような人であろう。
と、想像したと、言うよりは、
このような人に相違ない。
と、定めてしまっていた人物とは、あまりに違っていたので、
私には、
どうしてもその人がソーンダイク先生である。
とは、思えなかったのである。
しかし、その紳士が、
私が、プロセッサー(教授)・ソーンダイクです。
と、名乗られたのを聴くと、もはや疑いの余地はなかった。
あとで、他の人に聞くと、
先生も私と同じような驚きを感じられたようである。
女子のカレッジを卒業して後、
海外万里の異国に、たった一人ぼっちで、
学問しよう。
と、いうのだから、
年は少なくとも25~26歳で、
やせたオールトメイド式の女性であろう。
と、先生は思っておられたのに、
見たところ、20歳にもならない
太く太った呑気そうな女性であったので、
かたならず驚かれたとの事であった。
私は、先生が、
私の想像とあまりにも違っておられたので、
脳の働きが全く止まった気がして、
挨拶をする時に困ったが、先生は、さすがに、
丁度、あなたは、私が想像していた人です。
と、言わぬばかりに親しく握手して椅子をすすめられた。
そして、先生と相談して、
私は、その学年に取るべき学科定めた。