プラットフォームに出ると、
純白な服を付けた若いブロンドの婦人が
つかつかと自分の方に歩いてきた。
そして、
あなたがA嬢ですか。
私はクリスティー夫人(ギャムブの監督者)に頼まれて
お迎えに上がりました。さあ、どうぞお先へ・・・・・
と、言いながら、私を二人乗りの馬車の左側に乗せ、
持っていた革鞄を座席の下に入れ、
無造作に馬車に飛び乗って、巧みに手綱を操った。
馬は一斉高くいなびいて、まっしぐらに暗闇の中に突進した。
私は多少怖気がついていたが、
迎えの婦人は一向平気なおぼつかないカンテラの光を頼みに
うねうねした奥山道を自由に御してゆく。
あなたがお出でになるのを聞いて、
皆喜んで待っております。
と、夫人は沈黙を破った。
はっきりして冴えた言葉つき。
少したって
紐育はどの大学にいらっしゃいます?
コロムビア大学ですか。それとも紐育大学ですか。
と、問う。
コロムビア大学に行くつもりです。心理学研究の為に。
と、私は答えた。
それは、面白いでしょう。
私も、去年から
アメリカの有名な女流心理学者・
コーキンス博士について勉強しております。
先生の講義はまことに面白いですよ。
あまりよく辯がおまはりなさるので、
ジェームス博士がミス・トーキン(おしゃべり嬢)と、
名付けたくらいです。
と、おっしゃったので、この夫人は、
有名な女子大学ウェルズレーの学生であることが分かった。
あなたはテント生活を長くしていらっしゃいますか。
と、今度はこっちから聞いた。
六月の始めからです。
実は、
私はこのキャムブの主人クリスティー夫人が大好きで、
毎年学校が終えると、ここへ来て、
お手伝いをするのです。
キャムブには学生のほかに工女等年中働いていて
面白い遊びを知らない人がたくさんありますから、
このいう人の為にいろいろな遊戯など教えてやります。
あなたもどうぞ、助けてください。
と、答えた。
いいえ、どういたしまして。
私こそ助けていただけねば。
と、日本風に答えた。
二年後であったら、
それは面白いでしょう。
できるだけお助けいたしましょう。
と、答えただろう。