エーバリンは、私より三つも年下であったが、
丈は私より45寸高い。
顔は面長の方、少し引き込んだ眼は薄い茶色をして、
黄金色のふさふさした髪は波を打って肩の上にかかっている。
それを水色のリボンで首のあたりで無造作に結い、
真っ白の地に水色の縁を取った
裾の短いセーラー服を着ていた。
その夜、エーバリンは大変良く私を世話してくれ、
私が床に着くと、
自分もセーラー服を取り、真っ白な寝巻と着替え、
床にひざまつき、頭を埋め、就床前の祈祷を始めた。
初めてこれを見た私は、
そのような神々しい態度に心を打たれざるをえなかった。
この時だけの話ではないが、
私がある夏を富豪の家で過ごしている時に、
同じようなゆかしき経験を得た。
ここには七つをはじめ、三人の子供があった。
子供らは別々にベッドを持っていた。
そして、夜寝る時に、
母は一人一人の寝床に行き、子供をしてつまづかせ、
肩に手をかけ、
まず、聖書中にある「主の祈り」を、なさしめ、次に
家族の上に祝福があるように
と、祈り始めた。
子供がかわいいもとらない声で、
ブレス(神よ祝福せよ)
ダディー(父のあだ名)
ブレス・マザー・ブレス・グーガー(祖母のあだ名)
ブレス、アンティ・・・
と、親類中から女中の名まで呼ぶ姿を見た時は、
その可愛らしさ美しさに心を打たれ
思わず自分も頭の下がるのを覚えた。
旅の疲れもあっろう。
私はすぐ眠ってしまった。
ふと目が覚めると、
真っ暗であった夜は、
煌々たる月の光に破られて、
立木の姿が天幕に写っている。
何という静かな夜だろう。
と思いながら、再び眠りについた。
翌日、朝早く目を覚ますと、
樹々の間から美しい陽の光が差し込んでいた。
エーバリンのかわいい顔は、まだ白い枕の中に埋まっている。
ここは、一間四方ぐらいの部屋で、
内と外とはただ薄い一枚の天幕で隔てられているのみである。
地面より一尺ばかり高い床の上に、
筋向いに置かれてある寝台を一つは、
エーバリンが、一つは私が占領していた。
エーバリンの枕のそばに、
古いミカン箱のようなものに、白い布がかけられた台がある。
その台の上に一尺四方計りの鏡がある。
その前に一輪の野ばらがさしてある。
そのそばに、櫛道具がのっているところを見ると、
これが、我らの鏡台として用いられるものである。
私の枕元にも同じ様な箱の台がある。
私の鏡台には、水差しと手荒い鉢とがのっている。
私は休みながら考えた。
天幕生活なるものは、
人間の生活を極度にまで縮小して、
大自然の威力を極端に大きくしよう。
と、するようなものであると。
大自然のパノラマは、
クリスティー夫人が住める家の塔の上から見ることが出来る。
後ろにはさっそうたる森林が控えているが、
前は三方とも平野になっていて
ハイデルバーグ(アルタモントはその一部の山)
が、右のほうにかけて次第にその平地の方に下っている。
山の裾には、
日本人等が、
電気学など修めに来る
有名なるスケネクタディーという町があって、
工場から立ち上る煙は、雲か霞の如くに薄く見える。