紐育には、
東京の三菱が原等で見られる洋館より
あまり大きくない個人の邸宅もある。
だが、商売や事務所等には、
随分大きな建築もある。
例えば、
シンガービルディングの三十何階・
メトロポリタン・ビルディングの四十何階・
ウルウォースの62階等
到底日本で想像の付かない高い大きな建物がある。
これらの建築の立場から見ると、
山の蟻蛙(ぎてつ)の如く海は杯のごとし
とまではゆかないが、事実、人が犬か猫位にしか見えない。
私は紐育から英国のリバプールへ
船で訪ねた時は、田舎の町だなと思った。
なぜこんな高い建築が必要になってくるか。
と、言ふと、前に書いた様に、
マンハッタンといふごく小さな島の上に立っているから
である。
街を横へ広げる訳事ができないから、
勢いよく上へ上へと高くなる。
今の様な勢いならば、
80階あるいは100階位の建物が出来るかもしれない。
併し、都合のよい所にはマンハッタンという島は、
一つの大きな岩でできてゐるようである。
だから、いくら高い上を建てても、
地面がへこむような事はない。
とはいうものの、紐育の地下には実に蜂の巣の様に、
沢山な穴が開いている。
給水の鉄管が通っている事だけは、東京あたりと違ている所は無い。
だが、その他に下水の管が縦横十文字に通っている。
それならまだよいが、地下電気鉄道の圧搾して、
上野町から下町へ郵便物を送る穴、電信電話の穴、汽車の穴等がその他にある。
殊に、汽車の通っていく穴には、ハドソン河の下、数十尺否数十丈の穴の所を通ってゐるのがある。
東京や大阪当たりのように、小さな家が沢山出来て街が、だだ広くならない。
だから、距離か遠くなる毎に高くかかる様な
電信・電話・給水・下水道路の様なものは、完全に改良で出来る。
東京なども、下水工事を起こしたり、道路を改正しよう。
と思ったら、徒ら(いたずら)に外へ広がらないように、工夫しないといけない。