婦人運動なるものが起こった第二の原因は、

申すまでもなく近代における生活の困難と

産業制度の変革である。

昔は、工場等いう便利なものがなかった為に、

衣食住一切の事、殆ど皆手先で行われたそうで、

男性が、これら一切の事を引き受ける訳にはゆかぬ。

だから、50~60年前までは、男性が山野に出て、

衣食住の材料を得てくれば、

女性は、家にいて、これに手を加え、

或いは食物となし、衣服をこしらえていた。

しかし、今日では、工場という重宝なものがあって、

女性の手を煩わさないでも、

けっこう生活が出来るようになって来た。

日本では、まだそうでもないが、

欧米の大都市、例えば紐育の如き所においては、

金と体さえあれば、一向に不自由を感ぜぬ。

先ず、バツェラー・アパートメントという様な物を借りる。

そして、1週間いくらかお金を出せば、

家の中を毎日掃除に来てくれる。

それで、自分で室内を掃除する必要はない。

であるから、朝、顔を洗って外へ出れば、

三軒と歩かないうちに、飲食店がある。

ここにある朝飯の如きは、

5年前には、

金満家の家にでもなかったような贅沢な食事があり、

しかも安値で食べられる。

朝餉(あさげ)を終わって、

仕事場へ行く時に電車の停留場へ行くと、

伊太利亜人・希臘人(ギリシャ)等の靴磨きが待っている。

仕事場の近所に外套はおろかシャツ・靴下類に至るまで

売っている家が軒を並べて立っているから

生活上何一つ不自由を感じない。

故に、男子は、

この物価騰貴生活困難の世の中に

何を苦しんで妻子を支さえんや。

と、いうような気になる。

これは誠に自然の勢いである。

斯くの如くにして、女子は家庭というものから放逐されるに至った。

家庭から放逐せられた女子は、

勢い自分で自活の道を立てなければ、ならなくなる。

職業を得なければならなくなる。

財産を得なければならなくなる。

これらの事を成し遂げるには、

法律から改正して行かなくてはならぬ。

ここにおいて、参政権運動というものが必要になってくる。

然りして、北米合衆国の如く、

一般に婦人を尊重し自主独立を併防するところにおいては、

参政権運動は、着々功を奏して、

大統領を占拠する権利こそなけれ、

西海岸諸州においては、婦人が投票権を有し、

州の政治に容喙(ようかい)する事を、

得るようになっている。

最近の報道によると、

市俄古(しかご)いう大きな町を擁して、

中米に雄飛しているイリノイ州も女子に参政権を与え、

為に女性の敵であるところの酒は、

早晩イリノイ州に売る事は出来ぬようになりはせぬか。

と、いう事である。

エムバイア・ステートと言われる紐育州においては、

女子が参政権を得るようになる事は、時日の問題だ。

と言われている。

兎に角、米国を通じて女子が参政権を得るようになる事は、

あまり遠い将来の事ではあるまいかと想像せられる。