その夜、私も洋服に着替えて帰ろうと致しますと、

パウルが

是非一泊して行け。

と、言うのであります。

それには、

非常に奇抜な面白い所へ休ませるから。

と、いう条件付きなのです。

非常に奇抜で面白いってどんなところであろう。

と、私は悪戯好きのマダム・パウルの事でありますから、

いささか薄気味悪くも感じましたが、

外は雪で風も寒く、

もはや夜も更けて、

犬の遠吠えさえ心細く思われたでありますから、

勧められたままに一泊することに致しました。

すると、マダムは、

私に黙ってついておいで。

と、申して、

一人ずんずん先に立って三階に向かってがって行きます。

ところが驚くではありませんか。

私を連れて上がったのは、

三階の屋根の上の

寒い冷たい雪風の吹きさらす所なのではありませんか。

いかに何でもこれは虚事とは思いながら、

見るとその吹き曝しの中にちゃんとベットが置いてある。

さすがに私もたぢろぎますと、

パウルは笑って

その一つのベッドにおやすみなさい。

私もこれに寝るのだ。

という。

本気の沙汰とは思えぬが、

奇抜な所へ休ませる。

という条件付きで泊まった事であるから。

と思って、覚悟と決めてそのベッドに入りますと、

しかし、なるほど面白い具合にしてあります。

それは、「ファーベッド」で、

全身毛の中に埋もれて寝るようにしてあるのです。

そして、顔だけが出ているようになっているのです。

しかし何といっても、

屋根の上であるが、

顔の上の所だけちょうど、

雪のかからぬようにしてあるけれども、

見上げると、

真冬の空が雪雲をはらんでどんよりと、

今にも空全体が落ちて来そうに覗いている。

この夜は、1月30日の夜の事で身を切るような冷たい風は、

ビュービューと空に声を立てて、

横様に吹きまくる雪は、縦横に入り乱れて、

ちょっとした囲いぐらいでは、何の役にも立たず、

ベッドの廻りは、無論の事、

枕から顔の廻り迄降り積もるのであります。

野ざらし同様にして眠ったのは、

全く生まれて初めての事であります。