コロンビア大学に在学中、
一番楽しくてまた、最も自分を益したと思われるのは、
4年間の寮舎生活である。
ここで、初めて、米国婦人の真価が分かり、
また、米国人の団体的精神を吟味することが出来た。
今でも、折々、懐かしいその頃の生活を思い出す時に、
ありありと心に浮かんでくるのは、
アムステルダム・アーベニューと120丁目の角にある煉瓦と
花崗岩との大きな建物で、
1000人以上の女学生をホームを与えている。
ホイテヤ・ホールである。
ホールに来る人々は、まず、第一階の荘厳華麗なのに驚く。
いかめしい石段を10段ばかり登って、
入り口のドアを開けると、。
140~150畳も敷けそうな大広間に出る。
そこには、。
真っ白い天井に配置されている5個の大電灯と、
周囲に半間毎に置いてある10尺位の電灯台が
大理石の床と四方の壁とを真昼の様に明るく照らしている。
室の右手の石段を上ると事務所がある。
次が、郵便物取扱所であって、
厳重に鍵のかかる各自の郵便箱が並んでいる。
大広間の右手に、
二つの小さい応接間と大きな舞踏室がある。
舞踏室は、壁・椅子・敷物等すべて緑色で、
黒色の床が、
隅のグランド・ピアノ色と釣り合っている。
大広間の左手のクリーム色のカーテンを上げると、
小さな応接間が見える。
真っ白い床・真っ白いテーブル・椅子と敷物がクリーム色、
壁も同じ色で、
金で縁取った青々した海の額がかかっている。
この部屋は、私が入寮したころにはなかった。
ロマンティックな事情で造られた。
たくさんの寮生の中には、
今にも結婚約束(エンゲージ)のできそうな人や
もはや左の薬指に、
ダイヤモンドの指輪をはめている人が、多くいたが、
そういう人々の親しい友達が、
せっかく訪ねて来ても中央大広間では、
しんみりと話す機会がないので、
つい二人して、夜、外出することになる。
寮舎では、それを禁じようとしたが、
無理のようで、いろいろ考えた末、
特に、この人達の為にこの応接間を造り、
二人ずつ変わる変わる用いるようにさせる事にして、
ようやく外出の災いを防いだのである。