マージュリーは、停車場に私を迎えに来た女性である。
エーバリンは、私の天幕友達である。
クリスティー夫人は、
ニューヨークに住む夫人の友人から
私がキャンプに来るという知らせを得た時に、
誰と一緒にしようか。
と、思案した。
その結果、
エーバリンと私とを一つ天幕に置くに決めたのである。
と、云うのは、クリスティー夫人の考えによると、
日本夫人は、おとなしくて内気である。
だから、米国のお転婆大学生などと一緒にすると、
私がびっくりするか、しからずんば感化がよくない
というのである。
それで夫人はとしはのいかない、
生まれつき大きい高等女学生のエーバリンと、
一緒にしたのである。
ところが、私がテニスをしても
何しても米国の学生たちに負けないのみならず、
大いにお転婆性を発揮したために、
腫れ物に触れるように用心していたクリスティー夫人を始め、
皆の学生の心配が取れ、
ある者は意外と感じかれたらしい。
エーバリンと 、初めて夜を過ごした明けの日の事、
私は、例の奇抜な鏡台の上に、
一枚の葉書きが載っているのに、気が付いた。
そして何気なく終わりの方をちょっと見ると、
昨夜私と同じ位の日本の女子が私の天幕に参りました。
彼女は大層美しい。
しかし、少し日本人的臭いがする。
と、書いてあった。
私も、エーバリンと一緒にいて、
西洋人は一種の臭気を放つものである事
を、知った。
後で、エーバリンに、この事を話すと
彼女は決まり悪そうにして笑った。
テントにいる間私はエーバリンと非常に仲良く生活した。
しかし、私の方が二つ年上であったので、
マージュリーとの交際は、それほど長く続かなかった。
その後、私は、エーバリンがバッサー女子大学にいる時、
1~2回位、会ったけれども、
その時には前の如くに美しくはなかった。
たぶん年を取ったせいであろう。
私が、米国にいる時に長く交際していたのは、
マージュリーである。
私は、野原の上で彼女と一緒に写真を撮った。
焼き出してみると、彼女の顔は黒く、
私の顔は白く撮れている。
マージュリー
あなたは、
その写真を家に送ろう
と、思っているのですか。
家に送ると、
お父様が、鶴は黒ん坊と仲良くしている
と、お思いなさるでしょうね。
私
(戯れ半分に・・・・・)
黒ん坊と交際している
と、思われたって、かまわぬくらいの人から
仲良くしてもよろしゅう御座ります。
私は、後で、
この無邪気な話にも米国の人種問題が含まれている。
と、思った。
キャンプには常に70~80人の婦人がいた。
学生もあれば、店働きをしている人もあり
紐育やオルバニーあたりで、事務所で働いている人もいた。
私は、
種々雑多な職業の人を集めているにしては、
万事が円満にいっている
と、思った。
留まる事十週間にして、私はコロンビア大学へ入学のため紐育に向かって去ったが、
この間に置いて私は、若い米国婦人の日常生活を学び、会話も相応にできるようになった。
十週間に於いて、費やしたところのお金は僅か百円に満たなかった。