その並んだ家の一軒の事を話しましょう。

ガーデンの間の白い細道を通り、石段を登ると、

欄干の付いた幅二間位のピアザ(縁側の広い場所)に出ます。

ピアザに沿うた最も近い所に入り口があります。

あちらでは、鉄門や高塀等の用心はありません。

代わりに、家の入口の戸を非常に堅固に造ります。

多くは二重になってゐます。

外側は、最も堅牢で夜だけ用いられます。

内側のは強固と美麗と両性質を備えています。

戸の上半分は大抵硝子で、

室内が見えない様に色硝子になっています。

さなくば、内側にカーテンが掛けてあります。

入口を通りますと、まず広いホールに出ます。

鏡台・帽子掛等が据えられています。

壁上にあげられた金縁の大きな額は、

広々としたホールによく釣り合っております。

棕櫚等の背の高い植木があり、

二階に導く階段もここにあります。

入口に最も近い部屋は客室で、

客室とホールとの間には重い戸があります。

戸は常に開かれています。

その代わりに、天鵞絨等の重いカーテンが、

掛かっております。

客室は、一間か二間続きです。

装飾はアパートメントと大差はありません。

高い天井から下がった硝子のシャドレヤーで、

飾られた電燈があります。

そして、広々とした部屋を照らしている

壮麗な光景が見られます。

これは、小さなアパートメント・ハウスの客室では、

見られないところであります。

次は、居間(シッテングルーム)です。

この室には書物が置いてあります。

そして、お茶を出すテーブルや机などがあります。

美しいというよりは、

小じんまりした家庭らしい空気が漂っております。

ここで主婦が家の舵を取って行き、

ここで一家の睦まじい集まりが催うされます。

普通の家では居間が書斎も兼ねております。

学者や政治家等の家庭は勉強を必要とするような家では、

特に主人の為に書斎(ライブラリー)が設けられております。

此処に書物を全て置きます。

普通の家でも書物を沢山持っている事を誇りとします。

日本の家庭より書物の数が余程多くござします。

次は、食堂です。

ここは好みにより、窓の取り方等が異なっております。

明るいのはしんみりしないと云うので、

窓はわざと少なくし、薄暗くしている家庭もあります。

ですが、庭の美しさを楽しむような家では、

庭に面した方を、一面にガラス窓にしてあります。

そして、その窓に沿うて色々な植木が並んでおります。

窓を通して外の景色を見ながら

食事のできるようにしてあります。

食堂の側に小さな洗面室があります。

食堂へ行く前には必ず手を洗い、潔めてまいります。

彼方では、食事の時にパンを手で持ちます。

だから食事に際しては、手を洗う事は必要です。

小さい子供が手を洗わないで食堂に入ると、

お母様に見つけられ、追い返されます。

それは、往々にしてあります。

洗面台は大抵大理石で、できて居ります。

食堂と台所との間に小さな部屋があります。

此処には、主に食器が置かれてあります。

台所は、広くゆったりと場所が取ってあります。

此処にある物は、もちろんストーブ・料理台等です。

女中の食事をするテーブルもここにあります。

待遇の良い家では、食堂が設けられております。

食物を貯える冷蔵器は必ず備えられてあります。

大きな家には、氷の部屋が別にあります。

缶詰め・砂糖・粉などの食料品を置く場所もあります。