本文に入ります前にちょっと申しておかねばならぬ事は、
前にアパートメント・ハウスにつきお話しました。
その時に、室内装飾・台所・食堂の器具を一つずつ
説明いたしました。
プライベート・ハウスでも
この点は少しも変わりがありません。
だから、重複を避ける為これらを略し、
主にその違う所のみを書く事に致しました。
プライベート・ハウスは、前に申しました様に、
一家族が住む家屋です。
田舎はもちろんプライベート・ハウスばかりです。
しかし、紐育等の大都会でも
カーネギー・バイダビルド・グールド等の大金満家の家は、
大抵このプライベート・ハウスです。
ニューヨークの流行の
御本場として有名なフィフス・アベニュー等は、
プライベート・ハウスが多く御座います。
しかし、その持ち主がどなたも
世界に知れたお金持ちばかりなので驚かされます。
私は彼の地におります時に、時々招待を受けました。
そして、その一軒を訪問いたしました。
室内は実に立派であります。
ですが、狭い土地に建てられたものですから、
庭等の戸外の風景がなくて物足りない感を与えます。
これに反して田舎の都市の郊外に建てられた家は、
多くは大きな広々としたガーデンに取り囲まれております。
ですから、四季折々に変わった風情を示して、
美しゅうございます。
私は時々目を閉じてあちらの様子を心に描いてみます。
その時必ず浮かぶ、立て込んだ市街の中にある
プライベート・ハウスではありません。
目の覚めるように青々として、
芝生の上に浮かび出たように建てられた郊外の家であります。
私は、この画をそっくりそのままここに、
移してみたいと思います。
エルムツリーやメープルの樹等の植えられた
広い郊外の道路を散歩しているとしましょう。
まず、目につくのは、
両側の家とその前のガーデンの美しさです。
あちらでは、
決して日本のように固い門や高い塀で家を囲いません。
囲いがあっても、ただほんの低い垣です。
ですから、外から見る事が出来ます。
真っ青に茂った芝生の上には、赤・黄・ピンク等の草花が、
今を盛りと咲き誇っております。
庭は、周囲に調和して彩色された家々は、
でこぼこなく真っ直ぐに並んで整然とした感じを与えます。
一つの家を建てるにも、一本の木を植えるにも、
常に街全体の情景を考えて、その調和を図ります。
そして、通行人の目を喜ばしむ寮に努めます。
なので、街を歩きますのは、まるで美しい立派な公園を、
散歩しているような心地がいたします。
道からお庭が見えます。
だから、子供や通行人の為に花を取られ、
草を荒らされ等する事があらうと想像されます。
そのような事が決して起きないのは羨むべき事です。
街通りの様子はこの位にします。