旅にでかけた。

旅先は、四顧(しこ)の風物に富んでいる。

オルバニーからこちらの汽車も多くは山間渓谷を走り、

段々と登りになっていくので、

かの有名なサラトガの山中を通るのである。

ある時には、岩角に脅され、

ある時には、渓流の発端に目をくらまし、

左右両岸の初夏の青葉は、

その緑の滴りと清新な香りとを車中に送り込む。

さて、レイク・ジョージは、

横幅狭く、縦に長い湖水である。

シルバーベイに行くには、この長い湖水を、

此方の角から彼方の角まで縦に航行する。

だから、両岸の翠緑が目も鮮やかに迫ってくる。

この左右の両岸に港があり、

主に、避暑地として有名な所でもある。

避暑の客がこの港々へ下りて行く。

中には、短幕二つしかないような所へも、

船は寄っていくのである。

少し見たところ、スコットの詩にある

ロッホ・カトリンに似ているが湖上にはいくつも島がある。

さほど大きな島ではないが、

島の岩の上には緑草もあり、青松もあり、

学生がここで天幕生活をしているのが見受けられる。

舟は、このロマンティックな島々の間を縫うて進んで行く。

港には、紐育では見る事のできぬような、

赤い建物が立ち並んでいる。

それが、自然の風趣とよく調和を保っている。

私共一行は、水がかかる中を眺め豊かに航行して、

ようやく向かって左側のシルヴァーベイに着くことが出来た。

紐育からここまで、百哩(マイル)の程である。

シルバーベイは、もとより山間の一小村である。

しかし、避暑客を迎える地なのでホテルの設備等は、

よく行き届いている。

さすがである。

しかし家は、丸太造りが多く、

ごく清舎としていかにも簡古素朴な趣がある。

極端に文明の利器を駆使している米国の一都会から

かういう所へ逃れ来て、自然の洗礼を受けるという事は、

すでに精神上に偉大の効果がなければならぬ。

やがて、船は寄っていくのである。

さて、上陸すると、

道の両側には青葉が敷きつめられていた。

その細い道を一路、私共のそれぞれ宿るべきホテルに、

向かっていくのである。

そして、

バッサはバッサ。

ウェルズレーはウェルズレー

と、言った風に宿の区別が決まっている。

私共は、丁度晩餐時分に着いたので、

取り合えず、簡単な料理で食事を済ませた後、

定まった部屋に連れられて、そこに落ち着くことができた。

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